国内優先権の主張を伴う出願 特許法41条2項3項の括弧書きがポイント

出願日を抑えるために急いで特許出願したけれども、その後の研究で分かった成果を明細書に追加補充したくなる場合があります。しかし、明細書を補正する際には新規事項の追加が禁止されています(特許法17条の2の3項)。だからと言って別の出願をした場合には、先にした自己の出願によって出願が拒絶されるおそれがあります。

このような場合の便宜を図るために考えられた制度が国内優先権制度ということになります。

目次

国内優先権制度について

国内優先権制度では、先の特許出願の内容を拡大せずに、その特許出願の明細書の補正が許される範囲においては、先の出願の出願日を基準として審査してもらうことができます。一方、補正が許される範囲を超える後願の部分については、後の出願日を基準として審査されます。なお、特許権の存続期間は「後の出願日」が基準になりますから、特許権の存続期間が最大1年間延びることになり、ちょっとお得感があります。

国内優先権主張を伴う出願の要件としては、上記の条文に詳細に記載されていますが、要点は同一人による出願が特許庁に係属している間に後の特許出願をすることと、先の出願から1年以内に国内優先権を主張して出願することです。

国内優先権主張を伴う出願の効果としては、重複しますが、先の出願の明細書に記載されていた発明については、新規性等の特許要件について先の出願日を基準に判断してもらえることです。特許法41条2項3項の条文の括弧書きの条文は確認しておきましょう。

なお、国内優先権主張を伴う出願がされた場合は、先の出願の日から経済産業省令で定める期間(以前は1年3月とされていた)を経過した時に、先の出願は取り下げたものとみなされます(特許法42条1項)。

弁理士試験対策 国内優先権の主張要件について

弁理士試験において国内優先権の主張に関して問われそうな観点を以下に列挙します。

(1)先ず主体的要件についてです。国内優先権を主張する場合は、「先の出願人」と「後の出願人」が同一でなければなりません。同一人か否かは「後の出願時」で判断されます。「先の出願」の「特許を受ける権利」が他者に譲渡された場合などが問題になります。

(2)次に国内優先権の基となる出願(基礎出願)の要件についてです。

ⅰ)国内優先権の基礎出願は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲、図面に記載された発明が対象になります。外国語書面出願の場合は、外国語書面に記載された発明が対象になるというところが重要です。

ⅱ)先の出願が分割出願、変更出願や、実用新案登録に基づく特許出願に係る「新たな出願」である場合は、国内優先権の先の出願にはなり得ません。ひねった問題ですが、先の出願が分割出願、変更出願の「元の出願」である場合は、国内優先権の先の出願になり得ます。

ⅲ)分割出願、変更出願に係る「新たな出願」において、他の要件を満たしていれば、国内優先権を主張して出願することは可能性としてあり得ます。

(3)国内優先権の主張期間については

ⅰ)国内優先権主張を伴う出願は、先の出願の日から1年以内に出願しなければなりません。しかし、これには例外があります。条文の通り「その特許出願を先の出願の日から一年以内にすることができなかつたことについて正当な理由がある場合であつて、かつ、その特許出願が経済産業省令で定める期間内にされたものである場合」です。

ⅱ)国内優先権主張を伴う出願(後の出願)の時に、先の出願が「放棄され、取り下げられ、又は却下されている場合」は、国内優先権を主張することはできません。また、先の出願が「査定又は審決が確定している場合」も、国内優先権を主張することはできません。

国内優先権主張を伴う出願に関係する条文

特許法第41条を下記に示します。長い条文なのですが、括弧書きの部分について弁理士試験に出ることが多いので、丹念に読んで十分に理解しておくことが大切です。

第四十一条 特許を受けようとする者は、次に掲げる場合を除き、その特許出願に係る発明について、その者が特許又は実用新案登録を受ける権利を有する特許出願又は実用新案登録出願であつて先にされたもの(以下「先の出願」という。)の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲若しくは実用新案登録請求の範囲又は図面(先の出願が外国語書面出願である場合にあつては、外国語書面)に記載された発明に基づいて優先権を主張することができる。ただし、先の出願について仮専用実施権を有する者があるときは、その特許出願の際に、その承諾を得ている場合に限る。

 その特許出願が先の出願の日から一年以内にされたものでない場合(その特許出願を先の出願の日から一年以内にすることができなかつたことについて正当な理由がある場合であつて、かつ、その特許出願が経済産業省令で定める期間内にされたものである場合を除く。)

 先の出願が第四十四条第一項の規定による特許出願の分割に係る新たな特許出願、第四十六条第一項若しくは第二項の規定による出願の変更に係る特許出願若しくは第四十六条の二第一項の規定による実用新案登録に基づく特許出願又は実用新案法第十一条第一項において準用するこの法律第四十四条第一項の規定による実用新案登録出願の分割に係る新たな実用新案登録出願若しくは実用新案法第十条第一項若しくは第二項の規定による出願の変更に係る実用新案登録出願である場合

 先の出願が、その特許出願の際に、放棄され、取り下げられ、又は却下されている場合

 先の出願について、その特許出願の際に、査定又は審決が確定している場合

 先の出願について、その特許出願の際に、実用新案法第十四条第二項に規定する設定の登録がされている場合

 前項の規定による優先権の主張を伴う特許出願に係る発明のうち、当該優先権の主張の基礎とされた先の出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲若しくは実用新案登録請求の範囲又は図面(当該先の出願が外国語書面出願である場合にあつては、外国語書面)に記載された発明(当該先の出願が同項若しくは実用新案法第八条第一項の規定による優先権の主張又は第四十三条第一項、第四十三条の二第一項(第四十三条の三第三項において準用する場合を含む。)若しくは第四十三条の三第一項若しくは第二項(これらの規定を同法第十一条第一項において準用する場合を含む。)の規定による優先権の主張を伴う出願である場合には、当該先の出願についての優先権の主張の基礎とされた出願に係る出願の際の書類(明細書、特許請求の範囲若しくは実用新案登録請求の範囲又は図面に相当するものに限る。)に記載された発明を除く。)についての第二十九条、第二十九条の二本文、第三十条第一項及び第二項、第三十九条第一項から第四項まで、第六十九条第二項第二号、第七十二条、第七十九条、第八十一条、第八十二条第一項、第百四条(第六十五条第六項(第百八十四条の十第二項において準用する場合を含む。)において準用する場合を含む。)並びに第百二十六条第七項(第十七条の二第六項、第百二十条の五第九項及び第百三十四条の二第九項において準用する場合を含む。)、同法第七条第三項及び第十七条、意匠法第二十六条、第三十一条第二項及び第三十二条第二項並びに商標法(昭和三十四年法律第百二十七号)第二十九条並びに第三十三条の二第一項及び第三十三条の三第一項(これらの規定を同法第六十八条第三項において準用する場合を含む。)の規定の適用については、当該特許出願は、当該先の出願の時にされたものとみなす。

 第一項の規定による優先権の主張を伴う特許出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(外国語書面出願にあつては、外国語書面)に記載された発明のうち、当該優先権の主張の基礎とされた先の出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲若しくは実用新案登録請求の範囲又は図面(当該先の出願が外国語書面出願である場合にあつては、外国語書面)に記載された発明(当該先の出願が同項若しくは実用新案法第八条第一項の規定による優先権の主張又は第四十三条第一項、第四十三条の二第一項(第四十三条の三第三項において準用する場合を含む。)若しくは第四十三条の三第一項若しくは第二項(これらの規定を同法第十一条第一項において準用する場合を含む。)の規定による優先権の主張を伴う出願である場合には、当該先の出願についての優先権の主張の基礎とされた出願に係る出願の際の書類(明細書、特許請求の範囲若しくは実用新案登録請求の範囲又は図面に相当するものに限る。)に記載された発明を除く。)については、当該特許出願について特許掲載公報の発行又は出願公開がされた時に当該先の出願について出願公開又は実用新案掲載公報の発行がされたものとみなして、第二十九条の二本文又は同法第三条の二本文の規定を適用する。

 第一項の規定による優先権を主張しようとする者は、その旨及び先の出願の表示を記載した書面を経済産業省令で定める期間内に特許庁長官に提出しなければならない。


ここまで読んでいただき、どうも有難うございました。

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