【保存版】特許無効調査の進め方 8ステップ

壁に脚

特許の無効調査は、企業にとって経営に直接的に影響する重要な調査です。それだけに高い調査品質と信頼性が問われます。本記事では、特許無効調査をどのようにして行うか、経験に基づいて無効調査のコツを詳細にご紹介いたします。

目次

特許無効調査とは障害となる他社の特許権に対し、無効理由を探し出す調査

無効資料調査は、新製品の製造・販売時に障害となりうる他社の特許権に対して、その障害を取り除くために行う特許調査です。具体的には当該の特許登録に無効理由がないか、その無効理由(例えば、当該発明の出願前に公開されている資料の存在)となりうる資料を探し出す特許調査です。

調査範囲は、国内特許はもとより、有効な資料が見つからなければ海外特許も調査の対象になります。さらに特許文献だけでなく場合によっては、各社から出ている「技報」など非特許文献も調査範囲になり得ます。

調査の結果、特許を無効化できる資料が見つかれば、ひとまず安心して新製品の製造・販売が行えることになります。このように調査結果が事業に大きく影響するため、非常に重要な特許調査と言えます。

無効資料調査は、その調査対象が「他社特許」であり、その登録に瑕疵(無効理由がないか)を調査するものですが、その調査対象が「自社特許」である場合もあります。その場合は、「無効資料調査」ではなく、「特許有効性調査」となります。

「特許有効性調査」は、他社に対して権利行使する前に、当該の自社特許の登録に瑕疵(無効理由)が無いかを調査するものです。立場が変わるだけで、実施する調査は同じということです。

特許無効調査のための8つの手順

無効資料調査の手順について以下に説明します。

ヒアリングして依頼者から情報を収集する

調査の準備段階として依頼者のヒアリングを行い、依頼内容の確認と無効資料調査の助けとなる情報を収集します。依頼者がすべての請求項を無効化したいとは限りません。特定の請求項だけを無効化すれば良い場合もありますので、依頼者に無効化したい請求項を確認します。

依頼者から発明の概要をヒアリングすることができれば、調査対象の発明の内容を理解する際に大変役に立ちます。さらに、依頼者が事前に調査した結果があれば、それは有用な情報です。無効資料とするには不十分であるものの、関連性がある資料の公報番号等の情があれば、調査の参考になります。是非聞いておきましょう。

調査開始の時点では、調査にどれだけの時間(≒費用)が掛かるか、見積もることが困難です。可能であれば、調査の途中で依頼者に中間報告を行い、その後の進め方を相談すると良いでしょう。

当該の特許公報を査読して本発明の本質部分を理解する

無効資料を探す作業に移る前に、無効化対象の特許公報を十分に読み込んで、当該特許の発明の本質を理解します。専門外の技術分野であることの方が多いため、一般情報を検索して、専門用語の意味や当該技術の課題やトレンドなど発明の理解に役立つ情報を仕入れ、発明の本質を正確に理解します。

ひとつ注意点を挙げると、ここで無効化対象の請求項もしっかりと確認しておくことです。無効化すべき請求項が、発明の本質部分でないこともあり得るからです。発明の本質部分にのみ注目して無効化資料を探した結果、無効化すべき請求項に関係する無効資料を見逃してしまうことがあり得るからです。

本発明の理解に関しては、「この発明はどのような課題を解決することが目的なのか」、「従来技術と何が異なるのか」、「どのような作用効果を期待しているのか」など、しっかり確認して頭にインプットしておきます。発明の本質を理解するためにこの工程に十分な時間を掛けることが、結果的にその後の調査の質と効率に大きく影響します。

つまり、本発明を理解することによって、「こんな課題について出願している公報は注意深く確認しよう」とか「この発明を説明するためには、こんな図が使われている筈だ」とかイメージを持つことが素早く関係する公報を探し出せるコツになります。

パテントファミリー、審査官引用文献を確認する

当該特許のパテントファミリーを確認しておきます。非常に近い資料が見つかったと思ったら、パテントファミリーでした、では笑えません。同様に、審査官引用文献を確認しておきます。見つかった無効資料が、審査官引用文献だったということがあり得ます。その場合は、当然その文献は無効化には使えません。何故なら、その文献を検討したうえでの登録査定だったからです。

なお、無効資料調査ではそこまで求められないかもしれませんが、権利範囲を特定するために「意見書」を確認するのも良いでしょう。禁反言によりイ号が権利範囲に含まれないという抗弁を構成することができるかもしれません。

特許調査の母集団を作成する前に調査観点を検討する

発明の本質部分の理解を深めていくと、探している無効資料がどこら辺に在りそうか、イメージできる場合があります。抽象的で分かりにくいと思いますが、例えば、「発明の本質から考えると、異なる技術分野にも無効資料がありそう」とか、「新しい技術分野だから、まず直近5年間の出願を重点的に見てみよう」とか、「国内特許より米国特許を見たほうが結果的に効率がよさそう」とかです。また、「この発明を説明するには図の使用が不可欠だから、実施例の図を中心にチェックしよう」などと、調査観点を検討します。

調査を始める前に、このような仮説を立てて調査し、首尾よく無効資料を見つけることができた場合は、大きな達成感が得られます。そしてこのような成功体験を積み重ねることにより、仮説を立てるスキルが上達し、無効資料調査の効率をどんどん上げることができます。

調査母集団を作成する

いよいよ、検索式を駆使して調査母集合を作成します。まず、無効化対象の当該特許公報に付与されている特許分類(IPC、FI、Fターム、等)や、J-PlatPatの特許・実用新案分類照会(PMGS)を参考にして適当と思われる特許分類を検討します。

特許分類だけを使った検索式では、しばしばヒット件数が膨大な件数になります。そこで、キーワードを使って絞り込み検索を行います。キーワードは決して単独で使わず、必ず同義語を調べて複数のキーワードの論理和を取るようにします。また、実務では近傍検索を使うことがしばしばあります。

調査範囲は、公開日・公表日・公報発行日が「優先日以前」のものとします。「出願日以前」ではありませんので注意しましょう。また、無効化対象が米国特許の場合には「仮出願」している場合があります。その場合は仮出願日が基準日になりますので注意が必要です。

完成した検索式で予備検索を行い、ヒットした案件を何件か確認しながら、必要に応じて特許分類やキーワードなどを修正します。

検索の結果、ヒットした件数が数千件などと、とても調査しきれない件数になった場合は、調査のコツがあります。

まず、もっとも無効資料が見つかりそうな特許分類、キーワードなどで絞り込んだ集合を作って優先して調査を行います。その集合で無効資料が見つからなかった場合は、調査範囲を少し広げた母集団を作成し、そこから調査済みの案件を差し引いた差分を調査する、といった具合に段階的に調査範囲を広げて無効資料を探すという方法です。

具体例で言えば、最初は「要約+請求項+発明名称」にキーワードが含まれる集合について調査し、無効資料が見つからなった場合は、「本文全文+書誌」にキーワードが含まれる集合に調査範囲を広げて調査済の案件との差分を調査するといった具合です。

無効資料調査の性格として、有力な無効資料が1件見つかりさえすれば十分なので、見つかる可能性が高い集合から見ていくという調査方法を採ることができます。

公報を斜め読みして無効資料に使えそうな案件を複数抽出する

いよいよ、特許DB/検索ツールを使って効率よく無効資料を探します。ツールは、ハイライトバー機能をサポートしているものが便利です。例えば、JP-NETがおすすめです。ハイライト機能だけの場合は、公報の最初から最後までスクロールしなければなりません。しかし、ハイライトバー機能があると、公報の上段・中段・下段のどのあたりにキーワードがあるかが分かります。したがって、スクロールしなくても、ピンポイントでダイレクトにそのキーワードが含まれる部分を効率的に確認することができるからです。

「しおり機能」がある場合は、公報を読みながら無関係の物は「×」、無効資料として使えるかもしれない文献は「△」、無効資料として使えそうな文献は「○」を付けて行きます。「○」の案件については立ち止まって時間を掛けて読み込んでも良いでしょう。精読の結果、無効化のための主引例に使えそうな文献である場合は、調査はそこでいったん終了になります。もう少し、関係性が強い(ズバリの)公報が欲しい場合は読み進めます。公報を読み進めるほどに、「目が肥えて」来ますので、一旦「△」を付けた案件でも読み直すと「×」になるものが多いものです。

クレームと引例の記載内容とを対比して対照表を作成する

調査結果を対照表(クレームチャート)にまとめます。EXCELなどを使って、調査対象の特許請求の範囲を改行と句読点の位置に着目して文節に分解し、一つのセルに一つの文節を入力します。そして、調査で見つかった無効資料の該当する記載内容を、対応する右側のセルに記載します。

このようにして、請求の範囲の各要素に対応して右側のセルを全部埋めることができれば、無効資料を見つけることができた、ということになります。一つの無効資料(主引例)で無効化すべき請求項に記載されている内容の全部を潰すことができれば申し分ありませんが、埋めることができない請求項が残る場合が多々あります。その場合は、別の無効資料(副引例)を探してきて、埋めるようにします。ここで、主引例と副引例を組み合わせることが容易であることを論理構成する必要があります。

無効資料が見つからなかった場合は依頼者に調査範囲/調査件数を報告する

国内/国外特許を調査しても適当な無効資料が見つからなった場合はどうしたら良いでしょうか。少なくとも、依頼者に対して、調査範囲を明示して、「この範囲を調査したが無効資料を見つけることができなかった」旨を報告すべきでしょう。

調査範囲を依頼者が確認して、調査する余地が残って無いな、と納得していただけるかはわかりませんが、「この範囲には無効資料がありません」と責任をもって言えるまで、粘って調査しましょう。

無効資料が偶然に見つかっても結果オーライですが、一所懸命探しても無効資料が見つからなければNGです。惜しい資料があっても、成果はゼロです。無効資料調査は結果が求められる厳しい調査です。


ここまで読んでいただき、どうも有難うございました。

是非、また、当ブログを読んでいただきますよう、よろしくお願いします。

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