新型コロナ・ワクチンの特許権に強制実施権が適用されるか?
昨今、新型コロナ・ワクチンについて話題になっていますが、そのワクチンの特許権に対して強制実施権が適用されるのでしょうか?
本記事では、新型コロナ・ワクチンの特許権に基づいて排他権が行使できるのか?強制実施権とはどういう権利なのかをご紹介しています。
目次
新型コロナ・ワクチンの特許権は排他権が行使できるのか?
2020年3月の今、新型コロナウィルスのワクチンが各社から出ています。世界的に見て日本ではワクチンの接種が遅れているとか、ワクチンの奪い合いとか、ニュースにもなっています。
各社から出ているワクチンには特許権があるのでしょうか? きっと特許を取っているのでしょう、少なくとも出願中ではあると思います。
さて今回はワクチンに特許権があるか/ないか、ということに関してではなく、ワクチンに特許権があるとして、その権利行使が制限されるのではないか? ということについて考えたいと思います。
強制実施権とは特許権者の意思にかかわらず強制的に設定する実施権
特許法では、次の何れかに該当する場合は、特許権者の意思に反しても、裁定により通常実施権が許諾されることがあると規定されています。
1.特許発明の実施が継続して3年以上日本国内において実施されていないとき(特許法第83条)
2.自己の特許発明が、他人の特許発明と利用関係にあるとき(特許法第92条)
3.特許発明の実施が公共の利益のために特に必要であるとき(特許法第93条)
新型コロナ・ワクチンの場合は、3.の「公共の利益のための特に必要であるとき」に該当すると考えられます。新型コロナウィルスに有効なワクチンの製造/販売を、1社が独占して他社に製造/販売させないとしたら(排他権を行使したら)・・・・。その結果、世界中の人々に十分な量のワクチンを迅速に供給できないとしたら、公共の利益に反しますね。
ちなみに、日本で裁定の通常実施権(強制実施権)が設定された事例はないそうです。
強制実施権の基となるTRIPS協定ではどのように規定されているのか
TRIPS協定は、国際的な自由貿易の秩序を維持するために、知的財産権の保護や権利行使について、加盟国に義務付けることを目的としています。日本も加盟国ですのでTRIPS協定に拘束され、国内法の特許法に反映されているということです。
TRIPS協定では、その第30条に特許権の例外、第31条に特許権の強制実施権が規定されています。
第30条では「特許権の排他的な権利については、限定的な例外を定めることができる。」とありますが、「但し、特許権者の正当な利益を不当に害さないことを条件とする。」と規定されていますので、特許権者の利益が優先されるということになります。
第31条には、一定の要件を満たせば、加盟国が特許権者の意思に反して強制的に実施許諾を与えることができる、ということが規定されています。基本的には特許権者の許諾を受けるために事前に相当の努力義務があるようですが、国家レベルの緊急事態の場合は、その努力が免除されるようです。
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