特許権の行使を考えると、発明の作用効果の記載は必要最小限に留めるべき

本記事では特許明細書の書き方、特に発明の作用効果の書き方についてご紹介しています。結論から言えば、特許権の行使を考えた場合、発明の作用効果の記載は必要最小限に留めるべきであると言えます。

目次

書き方によって読みにくい明細書が存在する

特許調査をしていて、日本の特許公報であるにも関わらず、読みやすい明細書と読みにくい明細書が存在すると感じることがあります。それは、技術的に難易度が高いという原因から読みにくいというわけではなく、書き方に起因するものです。この読解しにくい公報にはいくつかの原因がある事に気づきました。

一つ目は、「判断手段」「決定手段」などの「○○手段」という用語が多用されている明細書です。

特許請求の範囲で「○○手段」とクレームするのは良しとしても、実施の形態に「○○手段」という用語が使われている明細書が散見されます。「記憶手段」ならメモリかハードディスクだろうことは想像できますが、例えば「判断手段」というのは、どのように構成すれば実施できるのか解りません。このように「○○手段」と一般化されてしまうと、読んでいて発明の内容が頭に入ってきません。

二つ目は、発明の作用効果が分かりにくい明細書です。

明細書の流れは、だいたい以下のような流れで記載されています。

  1. 従来技術ではこのような課題があった。「発明が解決しようとする課題」
  2. そこで、本発明ではこのような手段を用いて課題を解決した。「課題を解決するための手段」
  3. 本発明によって、○○という効果がある。「発明の効果」
  4. 「図面の簡単な説明」
  5. 「発明を実施するための形態」

どうして読みにくいのか? それは「課題を解決するための手段」の書き方の違いにあると、気が付きました。

つまり、理解しやすい「課題を解決するための手段」の書き方は、特許請求の範囲の各請求項についてその内容を記載し、その後に発明による作用効果が記載されています。請求項ごとに作用効果が記載されていると、発明を理解するうえでとても助けになります。

一方、理解しにくい「課題を解決するための手段」の書き方は、各請求項についてその内容を記載するのみで、請求項についての作用効果は記載されていません。何故このような分かりにくい書き方をするのか、ご存知でしょうか?

特許明細書の権利書的側面から、発明の効果は必要最小限を記載している

「課題を解決するための手段」に発明による作用効果が記載されていないのは、特許明細書が「権利書的側面」を有していることが関係していると推察します。

発明による作用効果は【発明の効果】に記載してあれば必要十分であって、【発明を解決するための手段】に作用効果を記載することは必ずしも必要ないのです。むしろ、特許明細書の「権利書的側面」の性質を考えると、作用効果を記載しない方が良いのです。

この作用効果を記載しない方が良い、という理由を特許権の権利行使の場面を使って説明します。

侵害の警告を受けた相手側が、『この発明を実施すると、(例えば)寿命を大幅に延ばしコストを大幅に削減する作用効果があると、貴社の特許明細書に書かれていますが、弊社の製品では寿命が延びている事実はありません。つまり、当該発明の作用効果を得ていません。したがって、この発明を実施しているとは言えません。つまり貴社の特許権を侵害している事実はありません。』と主張される可能性があります。

上記の理由から、作用効果を「課題を解決するための手段」に、あえて記載していないものと推察します。

発明者は発明の価値をアピールしたいがために、作用効果を書きすぎる

特許明細書を書く技術者の立場では、当然のことながら「技術文書的側面」が前面に出ます。技術者としては、自分の発明をアピールしたいので、「課題を解決するための手段」に作用効果を書きたいと考えます。それも、あれもこれもと作用効果を書きすぎてしまう傾向があります。

発明者の気持ちはとっても理解できますが、過大に作用効果が記載されていると、いざ特許権を行使しようとするときに、前述のように相手から反論されてライセンス交渉の足を引っ張ることになりかねません。

特許調査する側から言えば、請求項ごとに作用効果が記載されている方が発明が理解しやすく助かるのですが、他社に使わせないという特許権の排他権を重視すると、請求項ごとに作用効果が記載しないほうが良いと考えられます。


ここまで読んでいただき、どうも有難うございました。

是非、また、当ブログを読んでいただきますよう、よろしくお願いします。

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