新規市場に参入するには最低限1件の攻めの特許権が必要
企業が新規事業に市場参入する場合には、既に存在する他社の特許権への対応が欠かせません。他社の特許権を回避できない場合は、相手企業から実施権を許諾してもらうなどのライセンス交渉が必要になります。
しかし、特許権は他社の使用を排除する排他権ですから、相手に突きつける自社の特許権が無ければ、ライセンス交渉のテーブルに着くことさえ叶いません。
したがって、新規事業に市場参入する場合には、相手と交渉できる自社の特許権である「攻めの特許権」が最低限1件は必要です。
本記事では、「攻めの特許権」が必要な理由と「攻めの特許権」の作り込みについて紹介しています。
目次
新規事業へ市場参入する際には、他社特許対応が必要!
電気・通信機器に関連する製品には、非常に多くの特許権が関わっています。数えたことはありませんので感覚的ですが、おそらく一つの製品に数百件以上の特許権が存在すると考えられます。
そのため、他社の特許権を全て回避して製品を設計/製造することは事実上不可能です。特許権が切れている枯れた技術だけで製品を作ることができないわけではありませんが、性能やコストで他社製品に勝つのは難しいでしょう。
ここで、X社は新規事業のY市場への参入を考えていると仮定しましょう。そのY市場は急速に拡大しており、後発で参入しても十分な収益が見込める有望な市場です。X社はY市場への参入を強く考えています。
X社はY事業に関する技術開発を進め、その結果、既存の製品よりも高性能で低価格の商品開発に成功しました。しかし、どうしてもZ社の特許権がある技術(特許技術)を使わざるを得ない事実が判明します。
そこで、X社はZ社の特許技術を使わせてもらえるように、Z社に出向きます。X社は首尾よくライセンスの許諾を受けることができると思われますでしょうか?
Y市場は急成長しているので、先行するZ社がX社にライセンスを与えて競争相手を増やすような愚を犯すわけはないと考えるのが自然です。
「ライセンスを許諾しなくても、ちっとも痛くないZ社」と、「研究開発費をつぎ込んできて今更引き返せないX社」。両社の立場の優劣は明々白々です。
ライセンス許諾を受けるには、攻めの自社特許権が必要!
X社の何がまずかったのでしょうか?
もし、Z社の胸先に突きつけるような自社の特許権を持って望めば、あるいは交渉がうまくいったかもしれませんね。
Z社の製品に使っている技術、もしくは、Z社が将来使うであろう技術に関係する特許権を、少なくとも1件、X社は持っていなければなりませんでした。有効な特許権を1件も持っていなければ、そもそも交渉のテーブルに着くことさえ叶わないのです。
したがって、X社はY製品の技術開発の過程で攻めの特許権を作り込み、ライセンス交渉に備えておくべきでした。
攻めの自社特許権を作り込むために周辺特許を狙う
「攻めの自社特許権を作り込む」といっても、後発のX社が威力のある特許権を作り込めるのか?無理ではないか?と思われるかもしれません。
確かにZ社の技術を根本的に凌駕するような画期的な技術ができれば理想的でしょうが、そうかといって時間を掛けて他社にない独創的な技術開発をやっていると、時流に乗り損ねる危険性が大きいと考えられます。
それでは、どうすればよいのか? 答えは、周辺特許を取ることです。Z社の中心技術に関わる特許権の周りを周辺特許で囲い込む戦術を取るのです。即ち、X社はZ社の中心技術の特許を使わなければ製品を出せませんが、Z社もX社の周辺特許を使わざるを得ない状況に持って行くのです。
周辺特許でZ社の特許技術を囲い込むことができれば、Z社はクロスライセンス交渉の席に着かざるを得なくなります。
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