6Gの特許検索に役に立つ9つの関連技術分野

日経新聞に『6G特許、米・日と中国で競う 出願シェア45%対40%』という記事がありました。5G通信さえまだ普及していないのに、もう6G通信の技術競争が始まっているということです。

本記事では、6Gの特許出願動向を調査するために、具体的には6G特許の検索式を設計するために必要な情報について、収集した結果をご紹介いたします。今後6G特許を調査する際に何らかの参考になれば嬉しいです。

目次

ニュースの概要 中国が次世代高速通信システム6G特許の主要国に

日経新聞の記事によれば、次世代高速通信システム「6G」の企画をめぐり、中国と米国・日本が特許で覇権争いを繰り広げている。6Gに関する特許出願件数を分析したところ、中国が全体の4割を占め、米国が35%、日本が1割弱を占めているということだ。特許調査は、サイバー総研(東京)が、通信技術・量子技術・基地局技術・人工知能などの9分野について、日米欧中韓の出願、およびPCT出願で登録・出願中の約2万件について分析したものである。

通信規格は、これまで国際組織が協調してその規格や標準が作られてきた。5Gの規格作りに際しては、国連の専門機関である国際電気通信連合(ITU)などを舞台に、基地局と端末の特許を多く持っていたファーウェイが規格作りを主導してきた経緯があった。6Gの規格作りに関しては、データの抜き取りリスクなどへの米国の危機感は強く、ファーウェイ制裁などを通じ6Gの国際的な規格づくりで中国の存在感を薄めたい考えだ。日経新聞の記事はこちらです。下のグラフは、サイバー総研のサイトから

引用:サイバー総研 http://www.cybersoken.com/blog/topics/2021/09/17/2978/

6Gに関係する9つの中核技術

さて、6Gに関連する特許を検索するには、6G通信技術を構成する固有技術やキーワードなどの情報を知ることが重要です。上述の特許分析を行ったサイバー総研では、9つの6G中核技術を軸にして6Gの特許の集合を作成したようです。

その9つの6G中核技術とは、①テラヘルツ波、②衛星統合通信、③全光通信、④量子暗号・通信、⑤時空間同期、⑥エッジコンピューティング、⑦MIMO・ビームフォーミング、⑧AI、⑨VR/AR/MRの9つです。

エッジコンピューティングやAI、VR/AR/MRは聞いたことがありますが、そのほかの技術はあまりなじみがありません。以下に各技術について簡単に説明します。なお、技術の内容はサイバー総研のプレスリリースを参考にさせていただきました。プレスリリースはこちらです。

テラヘルツ波:光と電波の中間の周波数領域にある電磁波で周波数は1THz(波長 300nm)前後

5Gで用いられているミリ波より高周波数帯の電波を用いることで、更に高速・広帯域を実現します。テラヘルツ波の基盤技術は、測定分野などの他の産業領域で既に活用されており、この技術を6G通信に適用するものです。

下図は、5Gと6Gの周波数帯を表したものを示しています。
引用:NTTドコモ「ホワイトペーパー:5Gの高度化と6G」Feb. 2021

一方、「テラヘルツ波」は「ミリ波」よりもさらに電波の直進性が高まり,遠くへ飛ばなくなるという課題があります。

衛星統合通信

人口衛星の他に、以前当ブログで紹介したHAPS(ソフトバンクの空飛ぶ携帯基地局に関連する特許)やドローンなどを使って、上空に基地局を配置する技術です。これによって、建物による遮蔽を抑えることができて、無線通信の更なる効率的な活用が可能になります。

下図は、HAPSのユースケースを表したものです。
引用:NTTドコモ「ホワイトペーパー:5Gの高度化と6G」Feb. 2021

全光通信

全光通信は、光信号と電気信号との変換エネルギーの消費を抑えることができると期待されています。また、無線と比べて高速・長距離、電磁誘導ノイズ耐性、傍聴耐性など、無線の弱点を補う機能性が期待できます。このため、5Gよりも数十倍のエネルギー消費が懸念される6Gにおいて、全光通信によって省電力化課題が解決されることが期待されています。

量子暗号・通信

量子暗号というのは、光の最小単位である光の粒=「光子」のような極小の物質の動きやふるまいを示す物理学の「量子力学」を応用した技術です。量子暗号通信は、暗号化してやり取りする情報とは別に、その暗号を解くために必要な「鍵」となる情報=暗号鍵を、分割して「光子」一つ一つにのせて送るというものです。

量子暗号・通信は、量子力学の原理を活用して通信内容を秘匿化する量子暗号技術と、量子暗号化されたデータによる光通信技術を指します。量子暗号は、光の量子状態が観測によって歪むことを利用することで盗聴の有無を判別し、盗聴されていない公開鍵を用いて復号化します。光の量子状態は観測以外の要因でも歪むことから、量子状態の安定した伝送が課題となっています。

時空間同期

時空間同期とは、デバイスの時刻同期が常に取 られ、近隣デバイス間の距離をデバイス自信が把握している状態のことです。「時空間同期ネットワーク」を実現することでモノが自律的に連携することができるようになります。

無線通信技術に高精度時刻同期を持ち込むことで、送受信端間の遅延時間を待ち合わせ時間などを設けず確実に保証する技術です。6Gでは、低遅延かつ送受信時間の揺らぎを保証したサービス提供の切り札として、安価で超高精度の時空間同期の導入が期待されています。

エッジコンピューティング

エッジコンピューティングは、IoTなどで情報発生源の近くに信号処理部を配置して有効情報だけを送信することや、端末の移動やトラヒック流量の変化などに対応し最適化する役割も期待されています。6Gでは、ネットワークを構成する基盤、提供機能、利用産業などの多様化が更に進められることから、エッジでの更なる最適な組み合わせを実現するエッジコンピューティングが期待されています。

MIMO・ビームフォーミング

MIMO(マイモ)とは「Multi Input Multi Output」の略で、複数のアンテナを用いて通信を行う技術です。このMIMOを利用すれば通信速度(スループット)を向上させることができます。一方、ビームフォーミング(beamforming)とは、電波を細く絞って、特定の方向に向けて集中的に発射する技術です。この技術を使えば、基地局と端末との間での電波干渉を減らし、より遠くまで電波を届けられるようになります。

MIMO技術は、4G時代から複数の送信アンテナから同時にデータを送信しそのデータを複数の受信アンテナで受信する技術として用いられており、5Gではミリ波への対応やビーム制御技術が加えられて、進化しています。6Gでは、離れたアンテナや衛星通信など、更に高度な運用が必要とされています。

AI

6Gネットワークは、ネットワーク構成要素の多様化に加え、医療・交通、農業など価値観の異なるサービスの提供が期待され、そのための最適なネットワーク運用を自動化するAI技術の活用が期待されています。

AR/VR/MR

VR/AR/MRなどのリアリティ映像の技術は、空間同士をインタラクティブに繋ぐ究極のヒューマン・マシン・インターフェイス技術として注目されています。6Gでは、超低遅延での遅延保証や遅延レベルの選択など地点間の距離を克服する目標が掲げられており、それらの機能を用いることで、空間をつなぐ通信の実現が期待されています。

以上の技術を基に特許の検索式を設計することになりますが、簡単ではないようです。


ここまで読んでいただき、どうも有難うございました。

是非、また、当ブログを読んでいただきますよう、よろしくお願いします。

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